CHR120の魅力

皆さんこんにちは、スガノです。私が長野にいるときは余裕が無くブログの更新ができていないので、こうして千葉に戻ってきたときに頻繁に更新しているような今日この頃です。暫しお付き合いください。

CHR120の発売からどれくらい経ったでしょうか。1年半~2年くらいでしょうか。時の流れは早いですね。。

発売当初、ミズナラ材のトールボーイエンクロージャーにCHR120を装着して聴いた音には度肝を抜かれたことを覚えています。

一般的に16cm口径と呼ばれるサイズ辺りから、10kHz以上の高域を出すことが難しくなります。多くのメーカーはラッパ形状のサブコーンによる振動で高域を伸ばすか、高域は諦めてスーパーツィーターと一緒に鳴らす前提?の特性にしたりしています。

一方Markaudioの凄いところは、16cm口径より一回り大きい18cm口径でありながら、本来のドーム形状を維持したまま20kHzまで高域を伸ばしていることです。しかも30Hzを鳴らせるポテンシャルを持ち合わせているなんて、信じられませんよね。

1個のユニットなのに、沈み込む低域から突き抜ける高域までしっかり出ていて、「あぁ、これがまさに『フル』レンジ」なんだなと感じました。

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ある日、お客様(以下、N様)から「CHR120用に使う密閉箱の推奨容積を教えていただきたい」とお問い合わせがありました。

詳しく聴くと、40年前のVictorの箱にCHR120を取り付けたいが、そのままでチューニングが合うのか不明なので、ダメなら密閉箱として使いたい、とのことでした。

Victor箱の容積が約50L,共振周波数が29Hzあたりだということで、それに合わせてCHR120を取り付けたときの周波数特性をVituixCAD2というソフトでシミュレーションしてみたところ・・・

CHR120バスレフ箱シミュレーション

f6(音圧が6dB減少している周波数)が28Hzと、十分に伸びた低域になっています。改めてスゴイ能力…(バッフルステップ損失は加味していません)

バスレフポートを塞いで密閉箱としたときの特性も出してみました。

CHR120密閉箱シミュレーション

こちらはf6=64Hzと、いかにも密閉型というダラ下がりの特性が出ました。バスレフ型と比べると低音は減っていますが、位相特性(薄いグレーの線)を比べると密閉型の方が位相の変化が少なく引き締まった低音が期待できます。

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Qtcというパラメータをご存じでしょうか?これは密閉型エンクロージャーにおけるシステムの「共振先鋭度」で、低域の音圧と制動に関わる値です。

以下のように、Qtc=0.5を境に制動具合が変化します。

●0.5より大きいとき:音圧を稼ぎやすいが「制動不足」の状態

●0.5のとき:「臨界制動」という過渡応答が一番良い状態(立ち上がり・立下りが最速)

●0.5より小さいとき:「過制動」という、振動板が動きづらく音圧も出しづらい状態

50Lの密閉型エンクロージャーにCHR120を取り付けたときのQtcは0.55で、過渡応答が比較的良い状態にあるといえます。これは試してみる価値がありますね。

上で紹介したミズナラ箱で聴いたとき、ふとバスレフポートを塞いでみたところ締まりのある低音になり個人的には好みの音でした。あのときのQtcはいくらだったんでしょうか。

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少々脱線しましたが、このような感じですとN様にお伝えしたところ、喜んでいただけたようで「そのまま取り付けても問題なさそうなので、バッフル板を加工してくれる業者を探します」とのことでした。

それから1か月ほどたった頃、ついに完成したとN様より連絡をいただきました。そのレビューを一部紹介させていただきます。(許可を得て公開しています)

「結論から言うと、驚きの低音と艶のある管の音に大変満足です。 10代からのJazzファンでJazz喫茶に通っていた世代なので、低音の迫力と管の音にはこだわりがあります。学生時代に社会人の方の家で聴いたLE8Tの音を追いかけてきましたのでCHR120のキラキラ系の管の音はドンピシャです。
驚いたのは低音です。雑誌やネットの紹介記事等を読んではいましたが、正直この大きさのフルレンジでそこまで期待はしていませんでした。バスレフポートはオリジナルのままでなんと35Hzから再生しています。でも、驚きは密閉箱の方です。バスレフポートをスポンジで塞いでもバスレフの時より音圧は下がるものの35Hz辺りからきちんと再生できているので、サブウーファーは使わず、アンプ(Marantz M-CR612)のイコライザで持ち上げてみました。結局100Hz以下を+8dBに設定しましたが、上質でキレの良い低音が出ています。おそらく、100Hz以下では歪率もそれなりに大きいだろうとは思いますが、色々な曲を聴いてみましたが、聴感上はなんの不満もありませんし、バスレフよりこちらの方が好みです。そう言うわけで、多分密閉箱をメインで聴くことになりそうです。」

いや~嬉しいですね、こういったご感想をいただけて。さらに嬉しいことに、測定データまでいただきました。

バスレフ型の周波数特性
密閉型の周波数特性

定在波の影響で凹凸がありますが、良い特性であろうことが伺えます。低域をブーストしても破綻なくドライブできるのは、往復18mmというXmaxとハイコンプライアンスで動きの良い振動系のおかげでしょう。さすがMarkaudio。

さらにN様から

「私の最初のスピーカーはダイヤトーンのP610Bの自作でしたし、昔聴いたLE8Tの音が忘れられない体験としてありフルレンジの音は大好きでしたが、それ以来自作をする余裕がなかったことと、フルレンジだけでは低音が出ないということがあり、2wayや3wayの既製品を愛用してきました。私のここ数年のメインシステムはQ acousticsのConcept20+KEFのKube10(密閉型サブウーファー)で100Hzでクロスして使っています。Concept20は箱の内側にゲルを使って箱の共振を抑えるというのがウリで、この音には大変満足しています。このシステムにした時にサブウーファーの使い勝手の良さがわかり、もし最悪フルレンジで低音が出ない場合はこれで補えると思えたことと、リタイヤして時間的余裕のある境遇にあることがもう一度フルレンジを聴いてみようと思った経緯です。フルレンジの良さはやはり一つでフルレンジをカバーする繋がりの良さだと思うので、その後はきちんと低音が出せるフルレンジを色々探して、ようやく見つけたのがCHR120です。結果は期待を遥かに上回る最高の音でした。これからは間違いなくこれが私のメインシステムです。」

と、大変ありがたいお言葉を頂きました。ご満足されたようで、私も嬉しい限りです。

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EBP=Efficiency Bandwidth Product:能率帯域幅積という指標があります。これは、あるユニットの適正箱が密閉型かバスレフ型かの判別に用いられ、「fs:最低共振周波数」÷「Qes:電気的共振先鋭度」で求められます。その値が0~50なら密閉型推奨、50~100ならどちらも可能、100~150ならバスレフ型推奨というように判別できます。

Markaudioのユニットをこの指標に当てはめると、ほとんどのユニットが100を超えておりバスレフ型が適しているということが分かります。

一方CHR120は、EBPが77とバスレフ型・密閉型どちらも使えるような設計になっており、Markaudioの中では珍しい特徴となっています。Alpair12PWもEBPが71と、どらかというと密閉型の方が向いているようなユニットです。

EBPは経験的な指標ですのであくまでも目安でしかありませんが、N様が最終的に密閉型を選択されたということはCHR120が密閉型でも上手く機能することのエビデンスになりますね。

バスレフ型のズドンとした迫力のある低域も良いですが、バシッと芯のある密閉型の低域も魅力的です。密閉型で(もちろんバスレフ型でも)質の高いシステムを自作したい方は、是非CHR120のご使用を検討ください!

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QtcやEBP、ほかエンクロージャー設計について詳しく知りたい方は、

自作スピーカーエンクロージャー設計法マスターブック」をお読みください。

私のバイブルでもあり、世界標準のエンクロージャー設計法が分かりやすく説明されている良本です。

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以前の投稿で、OM-MF4Mica or CHN40を複数使用したラインアレイスピーカーを試作しているとお伝えしましたが、実はAlpair12PW or CHR120を使用したエンクロージャーの試作も同時に進めています。

ラインアレイだけでは低域が不足しそうなので、この箱をサブウーファーとしても使えるような感じにしようと思っています。が、サブウーファーのチューニングは一筋縄ではいかないことが多いのでどうなるか分かりません。。

サブウーファーとしては上手くいかなかったとしても、単純にAlpair12PやCHR120のフルレンジとしての良さを引き出せるような設計にはしてあるので、とりあえず作ってみたいと思います。

では、また。

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