fidelitatem sound のオーディオと音楽ブログ
ジャズとオーディオのニッチな世界

Bill Evansの”音”と”原音”

最近はようやくコロナ禍も峠を乗り越えたかに思えすぐに戻れるかはかわからないけれど早くイベントをやりたいと思う今日この頃です。イベントの出展は大変ですがお客様との思わぬやり取りが音楽やオーディオの本質を考えさせられるきっかけになる事があります。このハプニングはある年のAudiobase でのことでした。ビルエバンスのPortrait in Jazzを流していた時、突然あるお客様から『この演奏は何製のピアノですか?』とツッコミがあり、続けて『この時代ではヤマハの訳がないですから、やはりこれはスタインウェイですよね』『でもこの再生音はスタインウェイの音ではないですね!』と。

何だかマークオーディオにいちゃもんを付けられたような状況です。変な雰囲気が漂います…そっと周りの仲間を見回すと一人の目は虚ろでもう一人は下を向いてしまっています。このままではイベントが台無しになってしまいます…相手はクラシック音楽に精通している方に違いなく強敵です。そこで何も反論せずCDを取り替えます。ベートーヴェンのピアノ協奏曲を引っ張り出してしばらく流します。そしておもむろに『如何でしょうか?』と私、返答は『いや、すばらしい!いい音だ!これこそスタインウェイです。』

本音を言えばその時は『やった』と思っているのですが、逆にミキシングの課題を指摘された感もあり、原音再生の基本からみればそのとおりですから、ビルエバンスの音と原音については考えさせられるハプニングでした。

そして時が過ぎ、昨年エバンス好きの友人(お客様でもあります)Mさんから『ビルエバンス没後40年』と言う雑誌をプレゼントされました。この特集にはこの天才ピアニストをそれぞれの寄稿者の側面から本質を鋭くついた内容であり、改めて冒頭の出来事をどう考えればよいかを教えてもらった感がありましたので一部を紹介させて頂きたいと思います。

”ビルエバンスはその時代にあって異端のジャズピアニストだったのではと思う。エバンス以降その影響を大きく受けて彼の様に演奏するピアニストは沢山いるがそのヴォイシング、節回し音色、独特のタイムフィールは彼以前には聴けなかったものだ。どうしてこんな演奏ができるのであろう。(中略)エバンスと全く同じタッチで演奏したとしても、音を出す、そして切るタイミング。フレーズアクセントの付け方やリズムでとても同じ音には聞こえなくなるエバンスのタッチはクリアで澄んでいて鋭くて彼の音楽そのものがたった一つの音でも表現できるような音をしている。(以降ヴォイシングやビートのタイミング等、的を得た説明を加えていますが略します)”      藤井郷子さん(ジャズピアニスト)

また、

”フランスのピアニスト ”ジャンイヴティボテ”のビルエバンスとの対話”と言うアルバムを聴いた時のことだ。(中略)ビルエバンスの演奏をそのまま採譜して譜面化しそれをあたかもラヴェルやドビュッシーが書き記したピアノ作品の様に演奏した作品だ。(中略)エバンスの肉体とは関係ないところで完璧なテクニックとダイナミクスと繊細さを駆使してフランス人ピアニストが再構築しているにすぎない演奏である。エバンスでもなければジャズでもない二十世紀に即興の音楽として成立したジャズとは最も遠い行為だ。だがその演奏を聴いて初めて僕はエバンスが人類の音楽の歴史に残した仕事の価値を理解したように思った。96年の録音なので音はいいし完璧に調律されたスタインウェイの響きは抜群だ。(中略)ジャズ的なピアノの音に仕上げられていないその録音と整音も異化効果を助長している。(以下略)加藤総夫氏

実はこのCDは私も入手し実際に聴いてみました。が、確かにPortrait in Jazzよりずっと良い録音ですが残念ながら音が鳴っているだけで全くハートに届きません。藤井さんでは無いですが、エバンスとスコットラファロの演奏はワンタッチでそれとわかります。Portrait in Jazzのミキシングエンジニアはその時の感動を、そしてその素晴らしさをCDを聴く人達に是非伝えたいという気持ちがこのミキシングになっていったのではと思えます。原音を調整するにはその演奏に対する理解と節度を心得た調整が必要であろうと思います。(このソースは試聴室にありますから来られた方は試聴できます)

Jpopのミキシングはこてこてに塗りたくったお化粧の様にいじくりまくっています。Markaudioのユニットで再生するとその粗さが悲しいくらいすぐにわかりどうしても止めてしまいます。日本にも歌唱力に溢れた才能達はそれなりにいるのにこうやってスポイルしてしまいます。結局オーディオに携わる我々も含めて音楽を支える人たちが民度を蓄えその点で本当のプロにならないといけないのでしょう。もちろん原音に忠実なことは基本ですが、こう言った見地からはビルエバンスとスコットラファロの録音は”スタインウェイの音”で無くてもよいのかもしれないとおもいます。命と血を削りながら演奏するビルエバンスとスコットラファロの演奏をなめてはいけませんよ!。

昔の関連ブログ http://blog.fidelitatem-sound.jp/wp-admin/post.php?post=29&action=edit


Posted by admin on 10月 17th, 2021 :: Filed under 音楽
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