Markaudioで2way!

みなさんこんにちは、スガノです。

長きにわたる長野での戦いが終わり千葉に凱旋したので、またぼちぼちブログを更新していく所存です。

今回は、以前ちらっと紹介させていただいたMarkaudioのCHBW70とTW4Sを使った自作2wayスピーカーを題材に、フルレンジとマルチウェイの違いについて書きたいと思います。

これがその2wayスピーカー。名前はCHARCOAL。

Markaudio、そして弊社FidelitatemSoundと言えばフルレンジスピーカーという印象があると思います。自作スピーカーはフルレンジに始まりフルレンジに終わるという格言(?)を聴いたことがありますが、私も最初に自作したスピーカーはフルレンジスピーカーでした。(たしか秋葉原で売ってた400円くらいの激安ユニット。音はそこそこ良かった気がする。)

自作を始めた頃にいくつかのフルレンジスピーカーを交換しては楽しんでいたのですが、ある日オントモムックとして発売されたOM-MF5を聴いて、フルレンジに対する印象が変わりました。

『なんだ、このクセのないフルレンジは!?』

私のフルレンジ観を一変したOM-MF5

フルレンジは良くも悪くも「クセ」が生じます。コーン材質による音色の変化、分割振動による中高域の暴れ、低音が出ないor出すぎる、etc…と、それらの要素がフルレンジの「個性」を作っており、「良い音で聴く」というよりかは「好みの音を見つける」という認識でした。(決して他メーカーのフルレンジを揶揄する気はありません。)

OM-MF5を聴いて、まるでモニタースピーカーのような色付けの無さ、低域から高域までの繋がりの良さ、それでいて一回り大きいユニットに負けない低音の量感、単純に「良い!」と思いました(語彙力)。

そこからいろいろなスピーカーを聴いて耳が鍛えられたのか、Markaudioのユニットでもクセが無いわけではないことが分かってきたとき、「Markaudioのユニットで2wayを作ったらかなりクセの無い音が出るのでは?」と思い、冒頭のスピーカーを作ることになりました。せっかく弊社で取り扱っている2way用ユニット(CHBW70・TW4S)があるのに、作らないのはもったいないですよね。

そんな中でも本当にクセを感じないMAOP5(唐突)

皆さんもご存じと思いますが、マルチウェイスピーカーは各ユニットの「オイシイ」ところを、コイルやコンデンサなどの素子でうまく抽出し、それらを組み合わせて全帯域が「オイシイ」音にすることができます。

この「オイシイ」ところとは、簡単に言えば「特性が平坦で歪の小さい領域」です。ウーファーは高域の分割振動領域、ツィーターは中域の最低共振周波数付近で歪が増えてしまうので、そこを鳴らさないようにネットワークを組んで最終的に全帯域が低歪のスピーカーとなります。

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ここでMarkaudioの2wayユニットであるCHBW70とTW4Sの周波数特性を見てみましょう。

CHBW70の周波数特性
TW4Sの周波数特性

CHBW70の特性を見ると、3k~5kHzにかけてコーンの共振(BreakUp)があり、それより上はガクンと音圧が落ちています。

一方TW4Sの特性を見ると、2k~3kHzにかけて最低共振による音圧の上昇がみられ、2kHz以下は音圧が低下しています。

これらの特性から、ウーファーとツィーターのクロスポイントは3k~4kHzが良いように思いました。しかしこの特性はあくまで「無限大バッフル」に取り付けたときの特性に過ぎず、実際のエンクロージャーに取り付けたときはその箱の形状によって回折や干渉が生じるためこの特性からは少し変わってきます。では、実際に箱に取り付けた状態で特性を測定してみましょう。(容積10L、ダクトΦ35mm長さ8cm)

箱に取り付けた際のCHBW70周波数特性
箱に取り付けた際のTW4S周波数特性

どちらも大まかには無響室での無限大バッフル特性と似ていますが、CHBW70の方は3.5kHzにディップがあり、TW4Sの方はむしろ凹凸の少ないキレイな特性になっています。(ちなみにこの測定は「疑似無響室測定」という方法で部屋の反射波の影響を排除し、無響室で取った特性に近いデータを測定できます。測定ポイントはタイムアライメントを考慮し、ウーファー軸上1mとしています。)

これらのデータを元に、シミュレーターで素子の値をいろいろ調整したところ・・・

ネットワークを取り付けた完成品の周波数特性

上のような特性になりました(実測)。550Hz付近と1.5kHz付近、8kHz付近のディップが気になりますが、それを含めても45Hz~20kHzで±2.5dBの範囲に収まっています。低域は-10dBで見れば35Hzまで出ています。なかなかフラットな特性ですよね。クロスポイントは3.5kHzになりました。

ちなみにネットワークは以下の図の通りです。

電気的にはツィーターが-18dB/octの3次フィルター、ウーファーが-12dB/octの2次フィルターですが、音圧のスロープで見るとどちらも-24dB/octで減衰する4th Linkwitz-Rileyフィルターになっています。急峻にカットしながらもクロスポイントの位相を揃えることで、繋がりの良い音質になります。

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早速アンプにつないで音を出してみると、

『クセが無い!』

クセが全く感じられません。非常にマイルドで、低音から高音まで滑らかな音質です。

上手くいったなぁ~と思いながら弊社試聴室で音楽を聴いていると、社長が入ってきて一言

「細かい音が全然出てないよ」と。なんてことを…

確かに、良く言えば「粗が取れた」、悪く言えば「新鮮さが無くなった」ような音でした。

Markaudioのユニットは非常に微細な音まで再現できるので、それと比較すると「細かい音」はフルレンジ1発の方が良く出ているし、聴いていて「楽しい」と思える音です。2wayの方はクセが無い分、音楽の「抑揚」とか「雰囲気」みたいなものも無くなっている気がしました。

しばらくして社長は「バランス感はすごく良いし、聴いていて疲れない音だね」とフォロー(?)してくれました。今回は「クセの無い音」を目指して作りましたが、その点では社長も良さを理解してくれたようで今回の2wayプロジェクトは成功と言えると思います。

マルチウェイスピーカーは全体の周波数特性をフラットにできる分、コイルやコンデンサなどの素子を使うため、フルレンジに比べて位相特性が乱れます(位相回転)。時間軸でみても、ステップ波形を入力したときの過渡応答はフルレンジに比べて悪化します。社長はじめ生楽器を演奏していた人たちは、位相や時間軸のズレに敏感なようです。

マークフェンロンに言わせると、こういう地味な音は「メインストリートサウンド」だそうです。つまりは無個性ということですよね笑

無個性すなわちオールマイト?

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Markaudioのユニットで2wayスピーカーを作って感じたことは、「フルレンジ」と「マルチウェイ」は「優劣」ではなく「対比」の関係にあるということです。

フルレンジ:多少周波数特性が乱れても、時間軸や位相特性含め素子を通さないことによる音の新鮮さがメリット

マルチウェイ:鮮度が犠牲になるが、周波数特性のフラットさ・低歪がメリット

Markaudioのユニットは使い方でガラリと音が変わるので、図に表すならこんな感じでしょうか。。(あくまで個人の感想ですので、異論はどしどし受け付けます。)

あえて「感性」と「理性」という対比の言葉を使いましたが、ちょうど良い言葉があれば教えてください。

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弊社では楽器に使われる無垢の木材を使用したエンクロージャーとMarkaudioのフルレンジユニットを組み合わせて、新鮮で繊細な、楽器の響きが豊かなスピーカーNature Collectionシリーズを販売しています。

大人気で初回ロットがすぐ完売したNC7v2。現在第2ロット製造中です。

このブログを読んでくれている方々は一度は聞いたことがあるのではと思いますが、そういったフルレンジ愛好家にあえて提案させてください。

「Markaudioユニットで2wayを作ってみませんか?」

現在コイズミ無線でMarkaudioユニットのセールが行われています。(リンクはこちら

もちろん今回の2wayに使用したCHBW70,TW4Sも対象ですので、この機会にフルレンジとは異なるマルチウェイの音を作ってみませんか?もちろんネットワーク素子もコイズミ無線で購入できます!(こちら

ブラックフェイスでカッコいい!

エンクロージャーの形状は多少異なっても、容積10LでダクトはSTBP35を8cm、ユニットをなるべく近接して配置し、同じ定数の素子を使えばほとんど同じような特性になると思います。ツィーターの抵抗2つを無くすとクロスポイントの平坦性は保ったまま10kHz以上が5dBほど上昇するので、スピーカーの真正面で聴かない方には聴きやすい音になるかもしれません。

2wayユニットであっても、Markaudioユニットの特徴であるライトウェイト・ハイコンプライアンス・ロングストロークは健在ですので、きっと満足いただける音になると思います。

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今回は珍しくマルチウェイを取り上げましたが、次回はお待ちかねラインアレイスピーカーについてになると思います。やっとプロトタイプが完成したので、データをまとめ次第いろいろ書きたいと思います。

では、また。