stereo8月号 Alpair 5G 作例記事補足

みなさんこんにちは、スガノです。

stereo8月号にAlpair 5Gの作例記事を書かせていただきました。誌面には載り切らなかった測定値のゆるゆる考察などを以下に掲載します。

※こちらのページはstereo8月号をお読みいただいた前提で書いています。まだお読みでない方はこちらから購入してください。

今回の作例「Super Bowl」

この楕円体スピーカーはボウルを2個使用し、なんやかんやしていい感じに作りました。詳細は誌面をお読みください。

楕円体スピーカーと立方体スピーカーの比較

今回の測定は「疑似無響室測定」という方法を使いました。普通の部屋でも無響室と変わらない特性が測定できます。詳しくは“我がバイブル”たる「自作スピーカー マスターブック」などをご参照ください。(測定機材:CLIO Pocket アンプ:Topping LA90)

楕円体スピーカーとの比較として1辺18cmの立方体スピーカー(内容積・バスレフチューニングも同じ)も製作し、軸上・軸外特性を測定しました。上の特性はそれぞれの軸上音圧特性です。インピーダンス特性はどちらも大差なかったので楕円体のみ表示しています。

楕円体は滑らかな特性であるのに対し、立方体は3kHzに大きなディップがあります。これはバッフルステップ(正確にはエッジディフラクション)によるもので、主にユニットから各辺までの距離に応じた周波数に凸凹が生じます。次はそれぞれの軸外特性も見ながら考察していきます。

楕円体スピーカー 軸上・軸外特性

 

まずは楕円体スピーカーの特性です。軸外特性の差が分かりやすいように、差が大きい部分(100Hz~10kHz)を拡大表示しています。軸上特性に大きな凸凹はなく滑らかで、軸外特性も全体的に軸上と相似形を保ったまま音圧が低下しています。6kHzを超えると60°と90°の音圧が凸凹していますが、これはフレームを落とし込んでいないことが原因と思われます。フレーム外径が約10cmなので、半径の5cmで音速340m/sを割ると6.8kHzという結果が出ます。楕円体スピーカーといえどもフレームの角は90°ですので、その長さに対応する周波数が回折しその近辺の特性が乱れているのは当然と言えます。それでも軸外と軸上の音圧が入れ替わっているところは無いので、悪影響はあまり無さそうです。

立方体スピーカー 軸上・軸外特性

次は立方体スピーカーの特性です(表示スケールは楕円体の特性と同じ)。こちらの軸上特性は楕円体とうってかわって大きな凸凹があります。500Hz~2kHzが大きく盛り上がり、3kHz前後に大きな谷ができ、4kHz~6kHzに再び山が出来ています。軸外特性を見ると、軸上と相似形といえるのは2kHzまでで、3kHz付近では軸上と軸外の音圧が入れ替わっています。6.8kHzでは軸外にちょっとしたピークがあり、その上の特性は凸凹しています。6.8kHz付近の凸凹は先述したフレーム角の回折によるものだと思いますが、3kHzの大きな谷は何が原因なのでしょうか。ユニット中心からバッフル端までの距離が最短で9cm、最長で約13cmなので、単純に平均を取って11cmとしましょう。これで音速340m/sを割ると3kHzという結果が出ます。これはフレーム角で起こっていた回折がバッフル角でも起こっているということですね。大雑把な計算ですが、おおよそこれで合点がいきます。

楕円体スピーカーと立方体スピーカーの比較

ここで再び、それぞれの軸上特性の比較図です。2つの特性差をまとめると、軸上特性の滑らかさ、軸外特性の素直さが大きな違いです。10kHz以上の軸上・軸外特性はあまり差が無かったので表示していませんが、これはユニットそのものが持つ特性ということでしょう。10kHzの高域となると指向性が鋭く、バッフルの影響はほぼ無くなり振動板の形状や大きさのみで決まりそうです。ひとつ予想外だったのは、立方体の方が6kHz以上の60°、90°の指向性が広いことです。これは楕円体のバッフルがフレームだけであるのに対し、立方体はフレームのすぐ後ろにバッフルがあることでフレーム角での回折の影響が軽減されたのかもしれません。(知らんけど)

さて、これまで軸上・軸外特性について触れてきましたが、「普通は軸上でしか聴かないんだから、軸上特性だけ分かれば良いのでは?」という疑問が出そうなので解説します。部屋の中でスピーカーを鳴らす以上、壁や床・天井からの反射音が発生します。特に、1回反射して耳に届く1次反射音、2回反射して耳に届く2次反射音は定位や音場・音色の再現に大きな影響を与えます(反射の回数に関係なく、直接音との時間差が30msec以内だと影響が大きいと言われている)。軸外が軸上と相似形を保っている場合、直接音と反射音の特性も似てくるのでさほど悪影響はありません。しかし、直接音と反射音の特性が大きく違っていると、もはや反射音は壁の向こうにある別の特性のスピーカーから鳴らしている音のようになってしまいます。そうなると定位や音色に悪影響があることは想像に難くありません。特に3kHz付近は人間の耳が敏感な帯域であるので、少しの差が大きな違いとして感じられるはずです。軸上特性も大事ですが、軸外特性もそのスピーカーの「音の再現性」を大きく左右します。こういう理由で、軸外特性も測定していたということです。

もっと細かく測定すると、「スピノラマ」というグラフを描けるのですが、あいにく時間が無いのでこれで勘弁してください。詳しくはkanon5dさんが運営するサイト「AudiFill」に載っています。スピノラマがどういうものか知りたい方はこちらをお読みください。

楕円体スピーカー Waterfall特性

最後に参考として、楕円体スピーカーのWaterfall特性を載せておきます。このグラフの軸はY軸に音圧、X軸に周波数、Z軸に時間軸となっており、周波数ごとの減衰の特性を表しています。500Hz~18kHzまでが0.5ミリ秒程度で約10dB減衰しており、減衰の早さ=解像度の高さを表しています。一般的に8kHzや15kHzに見られるようなピークがあると時間経過とともに共振が残るのですが、この特性ではほかの帯域と大差なく収束していることが分かります。

一方、19kHzのピークが強烈に尾を引いていますが…みなさんは19kHzの音、聞こえますか?高周波は指向性が鋭く、少しスピーカーの角度を変えれば音圧は低下するのでさほど気にする必要はないでしょう。それよりも可聴帯域の収束の早さ・クセの少なさにご注目ください。特殊ガラス振動板のAlpair 5Gが如何に過渡応答の良いユニットであるかがお分かりいただけると思います。


ここまで特性値をあれこれ並べてきておいてなんですが、もちろんスピーカーは特性だけでは語れません。最終的には聴く人それぞれが良い音だと思えるかどうかです。楕円体スピーカーとの比較で立方体スピーカーのことを悪者のように書いてしまいましたが、あくまでそれは楕円体の特性と比較したときの話です。立方体は立方体で、実際に聞くと明るく厚みと張りのある音が心地よく感じます。曲のジャンルや楽器によっては立方体の方が良く聞こえる場合も充分あり得るでしょう。

あくまで今回の作例は「Alpair 5Gの良さを最大限発揮する」ために「エンクロージャーの悪影響を可能な限り排除しよう」として作ったもので、それが全ての人に良いと評価されるかは別の話です。皆さんがAlpair 5Gでスピーカーを自作されるときは、細かいことはあまり気にせず、でもこだわりたい方はとことんこだわって、好きなように製作してください。それが自作スピーカーの醍醐味でもありますから。

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では、また。(時間があるときに随時内容を更新します。ご意見や訂正などあればコメントでご指摘ください。)

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